解剖実習の中で「剖出」(ぼうしゅつ)という聞きなれない日本語があります。
ご遺体を前にして、内蔵や筋・神経・血管などを早く見たいと思うでしょう。
しかし、からだというのは、大事なものは外界から保護するために、またはブラブラと動いたりしないように、
疎性結合組織や脂肪組織の中に「埋まって」います。内蔵や筋・神経・血管を見るためにはこれらを取り払わなければなりません。
剖出という作業のひとつは、この発掘作業です。
剖出というのは、闇雲に構造物の「一部」を出して終わるのではありません。
血管や神経や筋肉の一部が見えたらそれを全部(full lenght)見えるようになるまで、疎性結合組織や脂肪組織を取り除きます。
すると、太い血管や神経が分岐しながら全身に向かう様子が見えるようになります。
筋肉ならば、どこに始まり(起始)どこに終わるのか(停止)。神経がどこで筋肉の中に入り込むのを見ることで、
どの神経支配を受けるのかが理解できます。
次に、結合組織や脂肪組織を取り除き、すべての血管や神経、筋肉を剖出することで、それらがどう並走、どのような位置関係にあるのか、どこでねじれているのか、立体的な位置関係を把握します。このときに見るだけでなく実際に手で触って三次元的な位置情報を集め、教科書やアトラスなどの2次元的な情報と照らし合わせて実感することが大切です。
視覚や文字情報だけでは得られない記憶が、手の立体感覚により形成されるのです。これこそが解剖実習の意義です。
参考書籍「解剖実習室へようこそ」医学書院